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映画「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰」の感想と評価

   

PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰」を観たので、感想と評価を書きます。

全体の評価は「それなりに楽しめた」「可もなく不可もなく」といった感じです。

その全体の評価はともかくとして、気になったのが「霜月監視官のキャラクター改変」です。そこで今回はおもに、霜月の2期でのキャラと今回の「罪と罰」でのキャラとの違いについて書きます。

ちなみに僕は以下の作品を観ています。

  • テレビアニメ第1期
  • テレビアニメ第2期
  • 劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス
  • PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰

ノベライズや漫画版は観ておらず、また設定資料については聞きかじった程度で原文にあたっていません。

これらの作品を観ていること、また「罪と罰」の完全ネタバレを前提に書きますのでご了承ください。

結論は「霜月は他人を裁く前に罪を償えよ」

最初に霜月と今回の作品づくりに携わった人に言いたいのが、「霜月に他人を裁かせる前に、彼女自身の罪を償わせるべきだ」ということです。

霜月はアニメ2期において、常守葵(常守朱の祖母)の居場所を東金朔夜にリークし、それによって常守葵は死にました。

霜月はその直前に東金の処分を要請していました。それほど彼の危険性を把握していたにも関わらず上記の行為に及んだのは、使い方があっているかはわかりませんが広義での「未必の故意」と言えるのではないでしょうか。

メンタルケア施設立てこもり事件のときも、彼女が早めに行動を起こしていれば助かった命があったかもしれません。

しかも常守葵の件については、その後「私は悪くない」と繰り返し、自分はシビュラに従っただけだと正当化した挙句、自身のサイコパスを保つためだけに東金を執行しようとします。

「だったら最初から従うなよ」です。

その後、「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」でも特に彼女の成長や変化は見られませんでした。まして、彼女が上記の件を回顧して悔やんだり、罪の意識に苛まれたりは一切しませんでした。

霜月は今回の「罪と罰」で主人公として活躍しましたが、その前に彼女について絶対に描くべきことがあったのではないでしょうか?

霜月のキャラが違いすぎる件

今回の「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰」では、霜月が主人公です。

その霜月は、何度か「正義」という言葉を口にし、責任を背負って潜在犯を助けるべく奮闘します。しかも最終盤には「まだ報いを受けてないやつがいる」と言い、なんとシビュラをぶん殴ります。

………え???

2期では「正義」よりも自身の「保身」を優先し、潜在犯は速やかに執行すべきと考えて行動。潜在犯である執行官の意見は聞かず、高圧的な態度をとる。

のみならず、自分より経験に優れた先輩の足を引っ張り、追い落とそうとまでする。

シビュラに迷いなく従うことを良しとしており、最終話ではその行動理念がより一層強化される。それを象徴するのが以下のセリフ。

「私、ここから先へは進みません。秘密は守ります。いえ、全部忘れます!何も知りません!私、シビュラを信じます。私、この社会が大好きですから!!」

※ 記憶をもとに書いているため細かいニュアンスは違うかもしれません。

こんなキャラクターだった霜月が、「罪と罰」では全くと言っていいほど別人になっているのです。

自分の罪をシビュラへの服従により正当化した人間が、突如正義感を持ってシビュラをぶん殴るなど、意味不明すぎてこちらの頭がおかしくなります。

2期では、常守がシビュラの正体を知ったうえで行動しているからこそ、霜月の目には彼女の捜査活動が「異常」に見えて反発していました。

同じ正体を知った霜月がシビュラに服従したのは、常守とは正反対のキャラであることを制作陣が意図していたからであるはずです。

その設定が全く活かされなかったどころか「なかったこと」にされているのが、本作です。

制作陣はさらに、宜野座伸元執行官にも「お前たち2人の猟犬で良かったよ」と言わせ、「まだ報いを受けてない」霜月を認めさせています。

アニメ2期の内容を忘れてしまうほど時間が経ったとは思えないのですが、ここ数年で制作陣各位の頭からは設定やこれまでのストーリーがすっぽり抜け落ちてしまったのでしょうか?

老いというのは本当に怖いものですね…。くだけた表現をすれば「マジで頭おかしい」って。

アニメシリーズを映画化しているのだから、キャラの連続性、一貫性を保たなければファンは楽しめないでしょう。なぜならキャラが変わったら、それはもう同じ作品ではないのですから。

霜月美佳の皮をかぶった常守朱が活躍する映画、もしくはパラレルワールド、あるいはテレビアニメとは別の世界線での出来事…そう思いたくなるほど霜月のキャラが違いました。

霜月の成長や変化を先に描くべきだった

個人的に、「罪と罰」をやる前に、霜月の成長や変化を描くべきだったと思います。

「罪と罰」では霜月を主人公に据えたため、2期のように常守との対立軸に置くことはできませんでした。基本的に、主人公をイヤなやつにはできません。それだとそもそも「お話にならない」ですから。

後から言うのは反則ではありますが、今回のような霜月の活躍を描くのであれば、前作の劇場版で霜月の変化や成長を描くべきだったのではないでしょうか。

あるいは、霜月にしっかり報いを受けさせるべきだったでしょう。

正直、悪役に魅力もない、常守も狡噛もよくわからない行動原理で動く謎の話をするくらいなら、そのほうが良かったと思います。

それであれば「罪と罰」の霜月を受け入れることができました。

現実に沿って言えば、前作でそのような話を作らなかったのだから、まともな主人公面した霜月の「罪と罰」など作るべきではなかったと思います。

素直に、常守が主人公の話で良かったのではないでしょうか。

2期の際、霜月の担当声優さんあてに、制作陣から「視聴者に全力で嫌われてください。花澤香菜(※常守の担当声優)を嫌いになってください」という話があったらしいですが、それほど制作陣は2人の対立軸を意識していたはずです。

そのうえで2期最終話で「堕ちるところまで堕ちた」ことを描いたはずなのに、気が付いたら浮上していた、で済ませるのは視聴者をバカにしすぎでしょう。

自分の罪はなかったことにして、しれっと「正義」を語らせるなんて正直吐き気がします。

霜月は嫌いだけど同情もしている

霜月のことは個人的に嫌いですが、同情もしています。また、能力は認めています。

霜月の目から見た常守は、いくつか判断ミスをしていますし、部下に大きな負担を強いています。また、社会の基盤であるシビュラシステムを疑うような行動をとっており、とても正常には見えません。

霜月はあの社会における模範的な市民であり、頭脳も明晰であることは認めています。

そして、シビュラの正体を知り自身の身を守るため、東金に従わざるを得なかったこともわかります。

しかしそれでも、正義を口にするのであれば東金とシビュラに服従するべきではなかったし、自分の過去の行動を顧みる必要があったでしょう。

一度はシステムに服従し罪を犯し、その自分の罪に向き合わず何事もなかったかのように振舞っている人間が、「正義」をことさら口にし、以前は絶対服従したシステムに反抗する。

霜月がシビュラに対して義憤を抱き、そのインターフェースを殴るという行為を、視聴者はどんな顔で見れば良かったのでしょうか。

しかも殴っただけで、シビュラは何も報いを受けていないという茶番(シビュラが報いを受けたら日本が崩壊するので無理ではあるのですが…)。

彼女の償いや禊を描くなどのしっかりとした救済をせず、このような中途半端なキャラに仕立ててしまった制作陣に、何を考えているのかと問いたいです。

「罪と罰」は単体で見ると悪くなかった

霜月に対する嫌悪感をひたすら書いてきましたが、映画「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰」を単体で見ると、それほど悪くありませんでした。

ストーリーはありきたりで、放射性物質の取り扱いや宜野座の左腕など突っ込みどころも多々ありますが、全体として見通しが良く、勧善懲悪的なわかりやすい話でした。

尺が短い点は料金設定も含めて賛否両論あると思いますが、僕は短い映画は好きです。

そのため、「サイコパスの設定はなんとなくわかる。2期の霜月のキャラは知らないか、忘れている。SFは好き。シンプルなストーリー、定番の展開が好み」という人にはオススメできます。

けっして良作とは言えないですが、それなりに楽しめる作品です。

 -映画とテレビ

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